はじめに
従業員持株会とは、従業員の方が自社の株式保有をスムーズにするために考案された制度です。
従業員にとっては財産形成、株式を持つことによっての経営参画意識の醸成などさまざまなメリットがあると考えられています。
事実、従業員数が50名を超えている会社の約20%の企業が従業員持株会を組成しているというデータもあります。※1
本稿では、事業承継の場面における従業員持株会導入による効果をいくつか紹介したいと思います。
※1アクセンチュア㈱「平成29年度我が国中小企業の構造分析及び構造変化の将来推計に係る委託事業報告書」
従業員持株会の活用方法
1.安定株主として存在
歴史の長い会社は、旧商法時代に発起人が最低7名必要だったこともあり、株主が親族だけでなく友人知人などに散らばっている可能性があります。
その散らばった株式の集約先としてポピュラーなのが従業員持株会です。
現在主流になっている民法上の組合(民法667)による従業員持株会においては、持株会の保有する財産は会員の共有財産となり、その管理が理事長に委託されることになるので、理事長を経営者に友好的な者とすることで従業員持株会を安定株主として位置づけることが一般的です。
ただし、理事長は議決権の不統一行使も可能であることから(会社法77条②反対解釈)、安定株主として機能しないことも考えられることに留意が必要です。
その際に有効となるのが種類株式の導入です。
従業員持株会の株式については、議決権を行使しない代わりに配当を多めにもらうことができる配当優先が付された議決権制限株式(または無議決権株式)を発行しておくことで、安定株主として存在してもらうことができます。
2.オーナー家の相続税対策
株式はオーナー家の相続財産となり、換金性の低い財産となることから財産の圧縮として株式をオーナー家から切り離す手法も考えられます。
その際のオーナー個人から従業員持株会へ株式を譲渡するときの課税関係を整理したいと思います。
まず、従業員持株会の組成手法として民法上の組合にて組成することがもっとも一般的ですが、この民法上の組合は組合会員個人へ課税を行ういわゆるパススルー課税です。
持株会を組成する際には、自社株式を持株会へ供給する必要があります。
つまり、「個人」から「個人」への売却が必要となります。
では、その際の「時価」はどのように考えるべきなのでしょうか。
この個人間売買の「時価」の参考となるのがいわゆる相続税法上の時価です。
少し詳しくみていきましょう。
①個人間売買の概要
オーナー株主が持株会へ譲渡した場合、オーナー株主、持株会会員へ適用される自社株式の評価額は下記のように算定されることになります。
オーナー株主:原則的評価 持株会会員:特例的評価
②売却側(オーナー株主)
オーナー株主に対して適用される時価は原則的評価額になりますが、個人間売買については低額譲渡(所59条)の論点が生じることがないので特例的評価額で売却することができることになります。
特例的評価額を用いた売却金額が売主の取得価額を上回る部分については、譲渡所得税が課されます。
③取得側(持株会会員)
持株会会員にとって時価である特例的評価額以上で売買されている限り、オーナー株主から贈与を受けたとみなされることはありません(相7条)。
しかし、特例的評価額より低い金額で売買がされた場合は、その低い部分の金額だけ贈与があったものみなされます。
まとめ
本稿では従業員持株会の事業承継対策の場面での活用方法を紹介しました。
その対策の効果として①安定株主として存在、②オーナー株主の相続税対策が挙げられました。
なぜなら、「配当優先付き無議決権株式」の種類株式を導入することで議決権比率を気にしない安定株主として存在してもらい、なおかつ、「配当還元価額」でオーナー家外へ売却することで相続財産を圧縮することができるからです。
従業員持株会の運営は税務だけでなく、いわゆる法務が非常に複雑に絡んでくるものなので持株会の組成については十分検討することをお勧めします。
福岡相続テラス(税理士法人アーリークロス)では相続に関する無料相談を行っておりますので、お気軽にご連絡ください。
よく読まれている記事
- 平日夜間対応
-
事前予約にて
土日祝対応 - テレビ会議対応