目次
はじめに
テレビでもよく紹介される家族信託ですが、具体的にどういうものなのか、他の制度と比べたときにどう使い分ける必要があるのか等、イメージできていますか?
信託はあくまで手法です。
目的と手法を混同してはいけません。
まずは、何をしたいのかを明確にすることで、理解が一気に加速します。
なぜなら信託はあくまで手法に過ぎず、どんな目的と適合するのかを一緒に考えながら手法を理解することが大切だからです。
この記事では、信託について周辺の制度と比較しながら理解すべきポイントをご紹介します。
この記事を読み終えると、今行っておくべき対策にかかる具体的な手法をイメージいただけるようになります。
認知症と相続に関する制度
例えばこの記事をご覧頂いている方のご両親様が、今は心身共に健康でも、転倒による骨折から寝たきりとなってしまい、そのまま認知機能等が低下してしまった場合、どのようなことが起きるでしょうか。
本記事では、こういったときに生じるリスクを比較検討要素といたします。
判断能力の低下から
1.入院や療養の手続き等の細かな部分を含めた、財産管理事務ができなくなる
2.不必要に高額な商品、サービスを買ってしまう(詐欺に遭遇)
3.不動産経営等に悪影響(修繕のための借金が出来ない等)がでる
4.財産を渡したい人に渡せなくなる
それぞれに特化した制度は以下となります。
- (1)成年後見制度
- (2)家族信託
- (3)遺言
成年後見制度、家族信託、遺言の比較表
上記のリスクすべてを、どれか1つの手法で実現することは難しいです。
抜けや漏れがないよう、場合によっては各制度を併用して対応することも必要です。
どのような目的が想定されるでしょうか?
1.身上監護
※療養看護の事務的な手続き等
2.詐欺まがいの取引を取り消したい
3.(経営者の場合)会社経営を円滑に続けたい
4.不動産経営を円滑に続けたい
5.生前贈与をしたい
6.対策を親族内だけで完結したい
7.対策にかかるコストを抑えたい
以下では、これらについてわかりやすく表を掲載しました。
※前提:いま意思能力が低下してしまった場合
認知症前に対策していない | 後見制度 | 家族信託 | 遺言 | |
趣旨 |
ー |
生活を守る | 財産管理 | 財産を渡したい人に渡す |
開始時期 | ー |
生前 |
生前 | 逝去後 |
詐欺まがいの取引を取り消したい | × | 〇 | △ | × |
身上監護を受けたい |
ー |
〇 | × | × |
会社経営を続けたい | × | × | 〇 | × |
不動産経営を続けたい | × |
△ 保存行為に限定 |
〇 | × |
生前贈与をしたい | × | × | 〇 | × |
親族で完結したい | ー | △ | 〇 | 〇 |
導入コスト | ー | △ | × | 〇 |
身上監護
例えば入院費用を口座から代理で引き出したいとき、何も対策をしていなければ、原則として勝手にお金を引き出すことはできません。
銀行ATMで勝手に引き出してしまうと、後ほど相続のときに相続人間で不用意な追求を受けてしまい、相続争いが起きかねません。
そのようなことが無いように手を打っておくことは必要です。
これは、後見制度が最も適しています。
なぜなら、家族信託では身上監護権は与えられないからです。
詐欺まがいの取引を取り消したい
通常の状態であれば、明らかに詐欺だと気づく取引でも、判断能力が低下してくるとなかなか気づけなくなります。
例えば明らかに必要がない少額な月額利用サービスがあったとして、それらが何個も積み重なると生活を圧迫します。
後見制度では、取消権が認められるため、これらのサービスを代理で取り消すことができます。
信託でも可能ですが、受託者には身上監護権は無いので、契約書で明記することが必要です。
会社経営を続けたい
(1)銀行融資
銀行から受けている融資について、社長が個人保証しているケースは珍しくありません。
では、認知症と診断された社長に金融機関は融資するでしょうか。
中小企業にとって資金繰りは生命線ともいえます。
そのような事態は容易に想像できます。
取締役会がある会社であれば、致し方無く、他の役員が役員欠格事由を根拠として強制的に退任させることもできますが、代表取締役の継がせたかった後継者に代表権を渡すことができるかは別問題です。
(2) 経営現場を考えると早めにバトンタッチすることがベスト
話は脱線しますが、現場の最前線で現役バリに働いている社長が認知症等で判断能力が低下してしまった場合どうなるでしょう?
社長だからついてきてくれているお得意先や従業員さんが困惑し、うまく経営できなくなってしまうのは上記の対策でも避けられそうにありません。
そのために、社長は早く次世代にバトンタッチ(事業承継)する準備をすることは必須でしょう。
不動産経営を円滑に続けたい
不動産もいずれは修繕するタイミングがきます。
銀行から融資を受けることができるかという問題が上記と同様に生じます。
また、地価が上がり、そのタイミングで不動産を売却したほうが良いという状況がくるかもしれません。
後見の場合は、売却は被後見人の生活に必要な範囲内でしか家庭裁判所の許可がおりませんので、経営判断として売却することは難しいといえます。
生前贈与をしたい
(1)贈与ができなくなる
贈与はあげる側の意思ともらう側の意思が一致して初めて成立します。
あげる側が判断能力が低下している場合、贈与は成立しません。
後見制度では、贈与はできません。
信託では可能です。
(2)相続税の税務調査は甘くない
余談ですが、意思能力が低下していることを知りながら、相続税を抑えることができると信じてせっせとお金を移している相談者の方をチラホラみかけます。
相続税の税務調査は甘くありません。
税務調査の経験がある方は非常に少ないです。
友人から聞きかじった程度の知識で相続税対策として、口座間で資金を移動する行為は認められません。
仮にパスしたとしても、それは見過ごされているだけです。
税務調査官はプロの探偵です。
相続税の調査において、どこかから認知症だったことを明らかにする証拠を見つけ出してきて、被相続人の財産であるものとして持戻され相続税の追徴を受けます。
認知症だったことを知っていながらそのように申告した場合、重加算税が課されます。
終わりに
いかがでしたか?
この記事では
・後見制度
・家族信託
・遺言
についてご説明いたしました。
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