目次
はじめに
近年財産のボーダーレス化が進み、海外へ財産をお持ちの方が増加しています。
その際に問題となってくるのが日本と海外との相続手続きの違いです。
日本と海外の相続手続きの大枠について知ることができれば、いざクロスボーダーの相続が発生したときに落ち着いて対処できるかと思います。
特にプロベートと呼ばれる相続手続きを踏まなければならない国については、生前に対策をしておくことで面倒な手続きを回避することができるので、生前対策は必須と言えます。
この記事では、日本と海外の遺産分割の手続きの違いについて解説します。
また、プロベート回避策についても触れますので参考にされてみてください。
遺産分割の基本的な仕組みの違い(プロベートの有無)
海外の遺産分割手続きは、プロベートという手続きがあるか否かによって大きく異なります。
プロベートとは、日本にはない相続手続きで、遺産をいったん財団に入れた後、裁判所が任命した代表者がその遺言書の有効性をチェック、相続人を確定し、遺産から債務を精算したのち、申告納税手続きを行うなどの遺産管理を行い、最終的に遺産の分配まで行う手続きです。
簡単にいうと相続人が財産を譲り受けるためにしなければならない裁判所手続きということです。
プロベートを行う国としては、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・香港・シンガポール・マレーシアなどがあります(管理精算主義)。
逆に日本のように裁判所が介入せずに相続人間で分割手続きを行う国は、ドイツ・イタリア・フランスなどがあります(包括承継主義)。
プロベートの問題点
プロベートはいくつもの手続きを経なければならず、時間とお金と労力を要します。
したがって下記のような点に留意する必要があります。
- 1.相続財産の利用や処分が制限される・・・プロベートが終了するまでは遺産の管理処分が自由にできません。
- 2.時間がかかる・・・通常プロベートが終了するまで1~3年ほどかかると言われています。
- 3.お金がかかる・・・弁護士、会計士、不動産鑑定士など専門家への報酬が高額になります。遺産総額の数%ほど費用がかかると言われています。
- 4.プライバシーが確保できない・・・被相続人の遺言書や財産の内容、相続人の情報などの個人情報が公開されます。
プロベートを回避するには?
プロベートの回避策は以下の方策があります。
1.生前信託(リビングトラスト)
トラスト文書を生前に作成しておくことでプロベートを回避することができます。
日本でいう遺言代用信託のようなものです。
トラストに入れることができる財産は下記のようなものです。
- ・不動産
- ・株式、債権、投資信託
- ・預金口座、証券口座
- ・会社の出資持分
- ・知的財産権
- ・その他美術品など
- ※トラストにはそのトラストを作成した国の財産しか入れられないので注意が必要です。
2.共同所有(ジョイント・テナンシーなど)
ジョイント・テナンシーとは、一つの財産を複数人の個人で同時に所有することを言います。
仮に所有者の一人に相続が発生したとしても、他の所有者に自動的に所有権が移転することになりプロベート手続きが不要となります。
日本でよく使われる「共有」とは法的性質が異なることとなります。
3.共同口座(ジョイント・アカウント)
ジョイント・テナンシーと同じで一つの口座を複数人で開設した口座となります。
こちらも所有者の一人に相続が発生したとしても、プロベート手続きが不要となります。
日本では被相続人の口座は相続が発生した場合は凍結されますが、ジョイント・アカウントでは一つの口座を各名義人がそれぞれ単独で引き出すことができるので非常に便利なものとなっております。
4.受取人指定財産
下記の財産については、口座開設時や取得時に受取人を指定し、プロベート手続きを回避することができます。
・銀行口座
・証券口座
・不動産
※口座によっては対応していないものや、州などによっては居住用不動産のみに限定しているところもあります。
5.少額資産
アメリカでは少額資産についてはプロベート手続きを要しないものもあります。
例えば、ハワイ州では10万ドル以下の動産についてはプロベートを必要としません。
おわりに
この記事では海外で相続が発生した場合のプロベート手続きについて解説しました。
本記事をまとめると、
- ・その国にプロベート手続きがあるか否かによって相続手続きは大きく変わる
- ・プロベートは時間とお金と労力がかかる
- ・プロベート回避策を生前にとることができる
- ・プロベート回避策は生前信託、ジョイント・テナンシー、ジョイント・アカウント、受取指定財産の活用、少額資産などがある
なじみの薄い国際相続ですが、今後は必ずニーズが増えてくるので今のうちから概略でも把握しておくべきかと思います。
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