2022.02.10

経営者の相続に対する誤った理解【現場体験記】

税理士 小山寛史
税理士 小山寛史

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目次

はじめに

経営者の相続はとても大変だと聞いたことはございませんか?

この記事では、経営者の相続対策の現場で実際に聞く、相続に関する誤った理解についていくつかご紹介いたします。

これを知ることで、未然に失敗を防ぐことができます。

この記事を読み終えると、経営者の相続対策について、ご自身にあった相続対策をご検討いただけるようになります。

ご自身の亡き後は、子どもたちが全てうまくやってくれるという誤解

経営者のお子様から相談を受けるケースが多くなっています

次期後継者から相談を受けるケースが増えています。

本記事のように、相続・事業承継に関連する情報を受け取りやすくなった結果、株式を引き継ぐ方が危機感を感じだしたことが原因ではないでしょうか。

「父は考えてくれているのだろうか?もしかして、このままいくと相当大変なのでは・・・?」

財産をもらう人の立場にたって考えましょう

会社の経営にタッチしていない子がいるとします。

一方で、会社を別の子にすべて引き継がせたいとします。

会社の経営にタッチしたことがない子の目線で、どのような相続になるかを想像してみましょう。

多くの場合

「お金がどれくらいもらえるか」

を真っ先に考えることになります。

このことに腹を立てる後継者の方も遺産分割協議の現場では多くいます。

しかし、よくよく話を聞いてみると

  • 会社のことや、会社を引き継ぐ兄弟のことを考えていないわけではありません。
  • 自分本位で遺産分割をまとめたいと思っているわけでもありません。
  • お金以外の目線で会社株式に関する相続を考えるための知識や経験を学ぶ機会が無かったのです。

つまり、会社の経営にタッチしていない子の目線でも相続対策を考えることは大切です。

そもそも自社の株価をご存知ですか?

会社の株式の評価をご存知ない経営者が大半です。

「株式の評価を知らない=相続対策を考えたことがない」

といっても過言ではありません。

実際、ご相談を受ける経営者のほとんどは自社株評価をご存知ありません。

すべての対策は自社の株価を知ることから始まります

自社の株価は、一定のルールに基づいて算定します。

弊社では、検討に入る前に多数の資料をお預かりしたうえでお時間を頂き、ある程度信頼できる株価を算定しています。

これは純資産評価について、含み益や含み損の状況により対策の方向性が大きく変わるためです。

株価をご覧いただき、どのような方針で対策を練っていきたいかを検討し、それぞれにあった対策内容をご提案しています。

正確な相続税を把握しましょう

会社の株を保有したまま相続が生じると、どれくらい相続税が課税されるかを知ることも大切です。

非上場会社の会社株式はほぼ金銭的価値はありませんが、相続税は課税されます。

銀行口座は凍結されてしまう。お金で相続を円満に解決したくてもうまくいかない場合があります

・葬儀費用

・相続税の支払い

・円満な相続のための解決資金

・引き継いだ資産の管理費用

・遺言の執行費用(登記費用や法務手続き費用等)

様々なお金が相続後の数ヶ月間で必要になります。

そして経営者の相続の場合は多額になりやすいです。

しかし、銀行は口座凍結されてしまいます。

凍結前にATMで引き出せばいいと言われる方もいらっしゃいますが、毎日50万円を引き出しにいくことを想像してみてください。

それに、相続後に勝手に被相続人名義の口座からお金を引き出すと後々トラブルに繋がりやすいです(銀行口座が凍結されるのはそのトラブルを防ぐためでもあります)

預金で残すよりも生命保険で残すことを検討しましょう。

保険は最短でお金を引き出すことができる手段です。

会社にも相続対策に協力してもらうことが大切です

「会社には迷惑をかけたくない。」

と言われる経営者の方もいらっしゃいます。

ですが、相続対策においては税務面からも法務面からも会社に協力してもらう必要があります。

たとえば、株価対策は会社を適切な形に整えたり(組織再編)、無理のない範囲で資産の組換えを実施する等で実現可能です。

また、定款内容の変更や株式の種類の変更等も、円滑な相続・事業承継に貢献するため、多角から検討することが大切です。

遺留分侵害額請求について、生前贈与は10年を超えたら時効という誤解

相続に関する記事でよく見受けます

遺留分を計算する際には、生前の贈与も加味します。

この生前の贈与については、過去10年までしか加算しないというのが原則です。

民法1044条
 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

 ② 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

 ③ 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

「損害を加えることを知って贈与したときは~前にしたものについても」

上記の引用条文の太字をご覧ください。

10年よりも前にしたものについても、加味する例外規定です。

「損害を加えることを知って」については、例えば

・経営者が退職し

・今後は年金で生活するため

・将来の相続まで財産に変動がないことが予測できる

このような状態で株式を贈与していたらどうでしょうか。

「損害を加えることを知って」贈与した

と言われても不思議ではありません。

※参考:大判昭11・6・17民集十五・一二四六、家族百選初版101

株式は会社に無償で引き取ってもらえば全て解決という策は危ない(自己株式の取得)

生前対策の面談で、意外とよく経営者から言われるのが

経営者「長男に会社を継いでもらおうと思っています。長男はすでに株式を一部持っています。だから、私の株式を会社に全部渡せば(私が株主からいなくなるので)長男が議決権を全て保有することになりますよね?これで相続対策は全て終わりますよね?他の子どもたちも会社が引き受けるなら遺留分の問題は生じず納得しますよね?」

この手法は税効率も悪く、法務的にもリスクがあります。

では何が問題なのでしょう?

税務① 経営者(父)に対して「みなし譲渡」課税

株式を時価で売却したものとみなされます。

これにより、時価と取得費(当初出資から特に異動がなければ、当初出資額)の差額の20.315%を、株式を譲渡した人(経営者)が納税しなければいけません。

これを実施するときは、会社から退職金をもらって、以後は社保を脱退し、国保となるケースが大半だと思います。

ここで売却益が出れば、翌年の国民健康保険料の負担が大変重くなります。

税務② 他の株主(息子)に対する「跳ね返り贈与」課税(相続税法9条)

経営者が株を無償で手放すことで、他の株主(息子)はその分の株式を間接的に入手していることになります。

その間接的な利益(経済的利益)に着目して、贈与税が課税されます。

ご存知のとおり、贈与税は負担が重たい税です。

仮に3,000万円分の利益が移った場合には、10,355,000円(特例贈与税率)もの大金が課税されます。

3分の1が納税になってしまいます。

※他の株主が法人の場合には、受贈益課税も考えられますが、特にその問題はありません(法人税法22②、61の3)

法務③ 他の相続人による、会社に対する遺留分侵害額請求

会社は遺留分侵害の対象にならないと誤解されている経営者の方が多いです。

遺留分侵害額の請求の相手方は、個人に限定されていませんのでご注意ください。

親族外の株主がいるけど、過半は親族で占めているから大丈夫!という誤解

モデル定款にこのような記載があります

日本公証人連合会がホームページで掲載している会社設立時のモデル定款(定款作成の参考になる資料)に、「相続人等に対する株式の売渡請求」が掲載されています。具体的には以下のような内容です。

(相続人等に対する売渡請求)
第8条 当会社は、相続、合併その他の一般承継により当会社の譲渡制限の付された株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

何か違和感を感じませんか?

定款に記載されていませんか?

ご自身の会社にこの文言が掲載されていないかお確かめください。

多くの会社で記載されています。

つまり、相続クーデターが生じる余地がある

この定款が意味することは

・遺言が無く(一般承継)

・会社に他の株主が存在している

場合には、相続人は株主から排除される(株式を強制的に買取られる)可能性があるということです。

これにより、親族外の株主が会社の議決権の過半数を占める結果となってしまった場合には、いつでも会社役員から降ろされる(解任)可能性があります。

会社株式を相続した相続人は、決議に参加できません

この定款の請求をする株主総会の決議に、会社株式を相続した相続人は参加できません。

必ず遺言作成を検討しましょう

上記のような相続クーデター対策はいくつかありますが、代表的なものは遺言です。

一般承継がトリガーの1つとなっています。

そもそも、この規定は経営の関与度合いが低い相続人が株主とならないようにするためという趣旨があります。

つまり、遺言で株式を渡すということは、経営の関与度合いが高い重要人物が株式を引き継ぐということですので、この売渡請求の対象からは除外されています。

この他にも

・定款変更(このルールを定款の記載から外す)

・種類株式による対策(謄本に載ることを嫌う経営者は多いです)

等が考えられます。

おわりに

いかがでしたか?この記事では

・ ご自身の亡き後は、子どもたちが全てうまくやってくれるという誤解

・ 遺留分侵害額請求について、生前贈与は10年を超えたら時効という誤解

・ 株式は会社に無償で引き取ってもらえば全て解決という策は危ない(自己株式の取得)

・ 親族外の株主がいるけど、過半は親族で占めているから大丈夫!という誤解

についてご説明いたしました。

相続・事業承継に関することは、お気軽に福岡相続テラス(税理士法人アーリークロス)にお問い合わせください。

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