2023.05.30

【負担付贈与】賃貸用マンションを子に贈与する際の注意点

税理士 小山寛史
税理士 小山寛史

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はじめに

相続税対策の一環としてご自身が所有している賃貸用不動産を子や孫に贈与を検討している方もいらっしゃるかと思います。

賃貸用不動産の贈与は、賃貸用不動産からの収益をご自身に貯めるのではなく次の世代がもらうことになりますので相続財産の増加を防ぐことができ、相続対策として有効な手段となります。

しかし、賃貸用不動産の贈与についてはいくつか注意点がありますので解説します。

賃貸用不動産を贈与する方法

暦年贈与と相続時精算課税制度

贈与税には大きく二つの制度があります。
原則的な制度である暦年贈与課税と特例的な措置としての相続時精算課税制度です。

  • 暦年贈与・・・年間110万円まで無税
  • 相続時精算課税制度・・・生涯累計で2500万円まで無税 ※

賃貸用不動産を贈与する場合はいずれかの方法で贈与する必要があるのですが、暦年贈与によると贈与税額が多額になりやすので基本的には相続時精算課税制度による贈与を選択することになります。

※R5年税制改正により相続時精算課税制度はR6年以降の贈与について大きな変更がありました。R6年以後の相続時精算課税制度についても年間110万円まで生前贈与が無税となります。

▼相続テラスコラム:R5年度税制改正大綱資産税まとめ
https://www.earlycross.co.jp/souzoku/r5zeiseikaiseitaikou/

預かり敷金と借入金も贈与

賃貸用不動産にはほとんどの物件で預かり敷金と借入金が残っているかと思います。

贈与の際はこれらも一緒に贈与することになるかと思いますが、預かり敷金と借入金は債務となりますので注意が必要です。

税務上、この債務も一緒に賃貸用不動産を贈与する際には負担付贈与として整理されることになります。

負担付贈与とは?

負担付贈与とは、贈与を受けた人に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。

この負担付贈与を受けた人は、贈与を受けた財産の価額から負担する債務を控除した金額について贈与を納めることになります。

従いまして、賃貸用不動産を贈与する場合に預かり敷金や借入金といった負担を贈与を受けた人に引き継ぐ場合は負担付贈与として整理されることになります。

負担付贈与の価額とは?

◎ 贈与税の課税価格=贈与財産の価額 ー 負担する債務

この場合の課税価格は、贈与された財産が土地や借地権等、家屋や構築物などである場合には、その贈与の時における通常の取引価額である時価から負担額を控除した価額とされています。

従いまして、賃貸用不動産を贈与する場合には贈与財産の価額が相続税評価額ではなく、時価となることに注意が必要です。

国税庁のホームページにも不動産等を負担付贈与した場合にどのような評価方法になるか個別で通達がでています。

▼国税庁HP 負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/890329/01.htm

贈与税だけでなく譲渡所得税がかかる可能性もある

負担付贈与を行った場合は、贈与を受けた人に贈与税がかかることは上記解説しました。

しかし、負担付贈与は贈与をした人にも譲渡所得税がかかる可能性があります。

これは贈与財産を贈与を受けた人に負担させる債務で譲渡したとみなして譲渡所得を認識することになるためです。

心情的には納得しがたいことではありますが、贈与者は、受贈者の債務引受けによる債務消滅の経済的利益を不動産譲渡の対価として受贈者に譲渡したと考え、負担してもらう債務の金額と取得費との差額に対して譲渡所得を認識し(所法36①②)、受贈者はこの負担額を贈与してもらった不動産の取得価額とします。

◎  譲渡所得=負担する債務の金額 ー 不動産の取得費

事例1:預り敷金とともに不動産を贈与した場合

前提

子が父から賃貸アパート(時価1,000万円、相続税評価額800万円、取得費600万円)の贈与を受ける際、預り敷金200万円を引き継ぐこととした場合

贈与税

◎  子の贈与税の課税価格=時価1,000万円 ー 預り敷金200万円

負担付贈与の場合は相続税評価額ではなく、いわゆる時価を基礎としてそこから負担額である預り敷金を控除して贈与税の課税価格を計算します。

譲渡所得税

◎  父の譲渡所得=預り敷金200万円 ー 取得費600万円

このケースでは父には譲渡所得税は発生しませんが、負担額が著しく低い価額(不動産時価の2分の1未満)で、かつ負担額(預り敷金)が取得費よりも低い場合は、譲渡損が生じますが、この譲渡損はないものとみなされます。
なお、受贈者は贈与者の取得価額及び取得日を承継します(所法59②、60①ニ)。

事例2:不動産とともに預り敷金分の現金を贈与した場合

前提

子が父から賃貸アパート(時価1,000万円、相続税評価額800万円、取得費600万円)の贈与を受ける際、不動産とともに預り敷金200万円分の現金の贈与を受けた場合

贈与税と譲渡所得税

◎  贈与税の課税価格=不動産の相続税評価額800万円+預り敷金(現金)200万円

この場合は預り敷金200万円を現金にて贈与しているので負担付贈与に当たらず、不動産の贈与と現金贈与という整理となります。

したがって、不動産は時価ではなく相続税評価額にて贈与税の課税価格を計算します。
なお、父の譲渡所得税はありません。

おわりに

いかがでしたか?この記事では賃貸用不動産を贈与した際の注意点についてまとめました。

特に預かり敷金と借入金がある場合の贈与には贈与税と譲渡所得税に注意が必要です。

賃貸用不動産の贈与に関することは、お気軽に税理士法人アーリークロス(福岡相続テラス)にお問い合わせください。

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