2024.07.19

「相続の開始」について

税理士 小山寛史
税理士 小山寛史

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「相続の開始」について

「相続の開始」について民法上の理解と「相続の開始を知った日」についての相続税法上の理解、「失踪宣告」や「死亡の発見が遅れた時」のこと、相続税の申告期限についてご紹介します。

相続は、死亡によって開始する。(民法第882条)

「相続の開始」

 相続税法において、相続税の申告期限は、「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」と定められています。

 「相続の開始」について、現在の民法では、相続は死亡によってのみ開始することとしております。古い戸籍謄本等を取得すると「家督相続」という文言を目にすることがあります。

旧民法では、家督相続の制度においても相続の開始を認めていましたが、現行の民法では「死亡」のみを相続開始の原因としています。
 
 ところで、現行の民法において死亡の時期がいつかということは、常に明らかになっているわけではありません。

これは、相続税の申告においてどのような影響を及ぼすのか、考えてみたいと思います。

民法上の理解

失踪宣告(民法30)

 失踪宣告は、生死が7年以上明らかでない不在者の場合や、船舶の沈没などの危機に遭遇した等で、その後生死が1年以上明らかでない場合などに、利害関係人の請求によって家庭裁判所が死亡を宣告する制度です。

 生死が7年以上明らかでない場合は7年が経過した時点で、船舶の沈没などの危機に遭遇した等の場合には危難が去ったときに、死亡したとみなされます。

なお、船舶の沈没などの危機、台風や水難などの事変によって死亡したことが推定される場合、官公署による認定死亡という制度も準備されています。

同時死亡(民法32の2) 

 例えば、自宅の焼失による父と子の死亡のように、死亡の時間的な前後が明らかでない場合はその者は同時に死亡したものと推定されます。

この場合において、仮に孫が存在する場合には、その孫は子を代襲して、父の財産を相続することになります。

税法上の理解

相続の開始を知った日

 相続税の申告期限に規定される「相続の開始を知った日」とは、失踪宣告の場合には、失踪宣告の審判が確定したことを知った日となります。

認定死亡の場合には、官公署から市町村長に対して死亡の報告がされた事を知った日となります。

 例えば、長い間音信不通であったなどの特殊な場合の「相続の開始を知った日」は戸籍などに記載されることもありませんので、「相続の開始を知った日」を明らかにしておく為に、連絡手段となった郵便物等の書類を残しておく事をお勧めします。

 この他、一人暮らしをしていた方が誰にも看取られずに亡くなってしまった場合は、発見が遅れる可能性があります。

この場合には、官公署等から死体発見の連絡を受けた日などが「相続の開始があったことを知った日」となります。

 死亡の日が特定できない場合に、戸籍謄本に「〇年〇月〇日から△月△日の間 死亡」と記載されることがあります。この場合には、記載された期間の中の最も遅い日が相続開始の日となります。

相続の開始後10ヶ月を経過した場合

 では、相続人が相続の開始を知らない場合には、いつになっても相続税の申告期限が到来しないことになるのでしょうか? 

 これでは、いつまでも相続税が課税できないことになってしまいます。

そこで、相続の開始後10ヶ月を経過した場合は、相続人が相続の開始を知らない場合であっても、課税庁からの相続税の決定処分が行えることとなっています(相続税法35②一)。

この場合は、相続税の法定申告期限は到来していないことになりますから、無申告加算税などは課税されません。

相続税の時効(除斥期間)

 ところで、相続税の時効(除斥期間)は原則として5年と決められています。相続税の時効(除斥期間)とは、税務署が課税処分をする権利を失い、申告・納税義務がなくなる期間のことです。

 民法上の基本的な理解では、権利者(この場合、課税庁)が権利行使可能な日(この場合、相続の開始後10ヶ月を経過した日)から時効期間が進行することになるのではないかと思われるかもしれませんが、そうなると、相続人が相続の開始を知った日が、実際の相続開始日より5年と10ヶ月を経過している場合は、相続人は相続税の納税義務を負わないこととなってしまいます。

 相続税の時効(除斥期間)は「相続税の申告期限の翌日」から開始します。

相続税の申告期限は、「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」となりますから、「相続の開始を知った日」が基準になると覚えておくとよいでしょう。

期限後申告のペナルティ

 相続税の申告及び納税に気が付いた時には速やかに申告及び納税をすることをお勧めします。自主的に申告することで、以下のペナルティを軽減等をすることができます。

  • 過少申告加算税(納める税金が少な過ぎた場合や還付される税金が多過ぎた場合)
  • 無申告加算税(確定申告の期限までに申告がされなかった場合)
  • 重加算税(仮装・隠蔽して納税申告書を提出していた場合) 
  • 延滞税(税金が定められた期限までに納付されない場合)

 

おわりに

いかがでしたか?この記事では

  • 「相続の開始」についての民法上の理解
  • 「相続の開始を知った日」についての相続税法上の理解
  • 「相続税の申告期限」

についてご説明いたしました。

相続税の申告期限は、相続が発生した日から10ヶ月以内と知ってはいても、相続の発生した日がわからない場合等申告期限が異なる事があります。

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