目次
はじめに
会社において誰が株主となるかは非常に重要な問題です。
もし社長に万が一が生じた場合、
相続対策を行っていなければ意図しない人物が株主となってしまい、
手塩にかけて育ててきた会社が乗っ取られる危険性があります。
この記事では、会社に必ず存在する「定款」の観点から、会社株式の相続対策についてご紹介いたします。
この記事をご覧頂くと会社法務の観点から、抜けがない相続対策についてご判断頂けるようになります。
株式会社の定款による相続対策
会社法において定款で定められる事項は様々ですが、
その中でも今回ご紹介するのは相続人等に対する株式の売渡し請求の規定です。
スクイーズアウト(締め出し)の手法の1つでもあります。
この規定を定めることにより、
株主に相続が発生した場合に、会社は株主の相続人(一般承継人)から株式を買い取ることが可能になるため、会社にとって望ましくない人物が株主になることを防ぐことができます。
ただし、導入を検討する場合は、経営体制や株主と役員の関係性なども含め、慎重に検討した方が良いと考えます。
下記に具体例を挙げます。
議決権70%の株式を社長、残り30%を従業員等の第三者が保有している会社において、社長が急逝してしまったケースを考えてみましょう。
この場合、残り30%の株式を保有している人が、 この規定を逆手にとって売渡し請求すると会社を第三者に乗っ取られてしまう可能性もあります。
(後述しますが、この際の株主総会特別決議において、相続の対象となっている70%の株式を承継した相続人等は議決権行使が出来ません)
売渡し請求を行うか否かは任意ですが、定款に定めなければ売渡し請求を行えないため、上記の危険性がないような株主構成でしたら、公証人会が公表しているモデル定款に記載されているため実務上は定款に定めるケースが多いです。
売渡し請求を行うための要件
売渡し請求を行うためには6つの要件があります。
1つずつ見ていきましょう。
①「売渡し請求の規定を定款に記載する」
まずは定款に記載がないと売渡し請求出来ません。
定款に相続人等に対する株式の売渡し請求の規定を追加する場合は、株主総会を開催して特別決議(会社法第309条第2項)で承認する必要があります。
②「売渡し請求の対象株式が譲渡制限株式であること」
相続人に対する売渡し請求の対象となるのは譲渡制限株式に対してのみです。
したがって、売渡し請求を行うためには譲渡制限株式を発行しておく必要があります。
③「被相続人の死亡を知ってから1年以内であること」
④「株主総会の特別決議の承認を得ること」
売渡し請求を決定する株主総会決議において、株式を承継した相続人等は議決権行使が出来ません。
ですので、株主構成がどのようになっているかは事前に確認しておくべきです。
特別決議では、売渡し請求をする株式の数と、請求相手の氏名・名称を定めます。
具体的な売買価格については総会決議では決定する必要はありませんが、請求相手と協議をする際には、会社側が一定の株価算定を行って妥当な金額を明示する必要があると考えられています。
⑤「買取金額が剰余金の分配可能額以内であること」
したがって、債務超過の会社は、財源規制を満たさず売渡し請求が出来ない可能性があります。
⑥「相続その他の一般承継であること」
特定の物や権利のみを受け継ぐことになる「特定承継」の場合には売渡し請求は行えません。
売渡請求の規定を定款から外したくない場合(定款変更をすることができない状態のとき等)には、あえて遺言で特定遺贈をすることで、売渡請求を回避することもあります。
定款の記載例
(相続人等に対する株式の売渡し請求)
第●条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することが出来る。
参照条文
会社法第174条 「相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め」
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
会社法第175条1項 「株主総会の議決権行使が出来ない者」
前項第二号の者は、同項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、同号の者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
会社法第461条1項5号 「分配可能額による規制」
次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。
五 第176条第1項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り
相続人に対する売渡し請求と売渡価格
それでは、実際に相続人に対する売渡し請求を行う場合を考えてみます。
その場合問題になるのが、株式の売買価格です。
これはどのように決定するのでしょうか?
株式の売買価格については、原則、会社と相続人との間の協議で決定することになります。
ただし、両者の間で協議がまとまらない場合は、裁判所に対して、売買価格の決定を求める申立てをすることができます。
売渡し請求があった日から20日以内に、売買価格が協議で成立せず、裁判所に対する売買価格の決定の申立てもない場合は、売渡し請求はその効力を失います。
価格について揉めそうであれば事前に裁判所への申立ての段取りも組んでおく必要もあります。
売渡し請求を受けた相続人等の株主は、価格の点を除き、売渡し請求自体を棄却することは出来ません。
相続人等に売渡し請求を行う方法は法律上定めがありませんが、実務においては後々のトラブル回避のためにも口頭ではなく、書面による方式が多いです。
参照条文
会社法第176条 「売渡しの請求」
株式会社は、前条第1項各号に掲げる事項を定めたときは、同項第二号の者に対し、同項第一号の株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、この限りでない。
会社法第177条5項 「売買価格の決定」
5 第2項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第1項の協議が調った場合を除く。)は、前条第1項の規定による請求は、その効力を失う。
合同会社の定款と相続対策
株主総会について上記で述べましたが、合同会社の場合はどうなるでしょうか。
合同会社の社員に相続が発生した場合、当該社員は退社となります。
そして、定款に特段の定めがない限り、相続人は社員の地位を承継することが出来ないため、合同会社の社員になることができません。
このような状況を避けるためには、「相続人が持分を承継して社員になることができる旨の定め」を定款に定めておく必要があります。
相続人が、被相続人の社員の地位を引き継ぐことが決定していて周りの反対もない場合は、予め相続対策として定款に定めておいた方が良いでしょう。
なお、この定めがない合同会社の場合には、相続人は、会社に対して退社に伴う持分の払戻しの請求を行うことになります。
相続税の目線からは、この定めがない場合、評価上、純資産価額方式により課税となるため、相続税が大きく増加する可能性があります。
定款の記載例
(相続及び合併による持分の承継)
第●条 当会社の社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、当該社員の持分を承継して社員となることができる。
株主に成年後見人がついた場合の取扱い
株主に成年後見人がついた場合は、当該成年後見人が、議決権を代理で行使することになります。
しかし、成年後見制度の趣旨からして議決権の行使の判断を本人と同レベルで行うことは難しく、
特にリスクの高い事業方針などの決定については、現実的に判断できない可能性が高いと言えます。
このような事態になるリスクを避けるためには、状況に応じて家族信託(民事信託)を利用することや種類株式を発行する等の対策をしておいた方が良いと考えます。
おわりに
いかがでしたか?
この記事では会社の定款から考える相続対策についてご説明いたしました。
相続税法や民法とは違い、会社法の観点から考えました。
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