グローバル企業に勤務していて駐在が決定したり、ノマドワーカーとして海外で働くことを決意する場合、税金の取扱いはどのようになるのでしょうか。今回は、長期間海外勤務になる場合の税金の取扱いについて簡単にご説明します。
日本国内の会社に勤めている給与所得者が、1年以上の予定で海外に転勤や出向をする場合、原則として、所得税法上の非居住者になります(居住者と非居住者の区別はこちら)。非居住者が国外勤務で得た給与には、原則、日本の所得税は課税されないため、海外に出発する前に日本国内で得た給与について源泉徴収された所得税を精算するための手続きを行う必要があります。
所得が会社からの給与のみの場合、精算方法は毎年12月の年末調整と同様で、出発前に下記の手順で会社で行われます。
①「給与所得者の保険料控除申告書」を会社に提出する。
この調整で控除する保険料は、非居住者となる日までに支払った金額が対象になります。
②今年の初めに提出した「給与所得者の扶養控除等申告書」の記載内容に変更がないかをチェックする。
控除対象扶養親族等に該当するかどうかは、出国時の現況で判断します。また、配偶者や扶養親族に所得があるときは、海外勤務となる年の1年分の所得金額を出国の時の現況で見積もり、配偶者控除や扶養控除が受けられるかどうか判断します。
③配偶者特別控除が受けられる場合は「給与所得者の配偶者特別控除申告書」も併せて会社に提出する。
一方、他の所得があったり、医療費控除を受けたい等の理由で確定申告をする必要がある場合は、(1)納税管理人を設定する、(2)出国前に準確定申告を行う方法があります。
(1)納税管理人を設定する
海外出発後も国内にある不動産の貸付や資産の譲渡による所得等、日本国内で生じる所得があるときは、納税管理人を定め、「所得税の納税管理人の届出書」を、納税地所轄の税務署長に提出しなければなりません。
納税管理人とは、確定申告書の提出や税金の納付を非居住者に代わってする人をいい、法人でも個人でもなることができます。面倒な手続きを家族や親族にお願いするのが気が引ける場合は、税理士法人に依頼することも可能です。出国前に納税管理人の届出書を提出すれば、その年の確定申告を通常の期限(翌年2月16日から3月15日まで)の間に納税管理人を通して実施することになります。なお、海外勤務となった年の翌年以後も、日本国内で国内源泉所得が生じるときは、納税管理人を通して毎年確定申告をすることになります。
(2)出国前に準確定申告を行う
納税管理人を設定しない場合、1月1日から出国日までの所得に関して、出国までに準確定申告をします。なお、1月1日から3月15日までに出国する場合は、前年分の所得に係る確定申告書も出国までに提出する必要があります。その後、日本での所得が発生し続ける場合には、その年の確定申告を通常通り翌年に実施し、準確定申告時の納税額との差額を支払う又は還付することとなります(一時帰国できない場合は納税管理人を立てることができます)。
ちなみに、非居住者が受け取る給与は、たとえその給与が日本にある本社から支払われていても勤務地が外国である場合、原則として日本の所得税は課税されませんが、日本の法人の役員である場合はその給与は日本国内で生じたものとして課税所得になります。具体的には、支払を受ける際に20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%)の税率で源泉徴収されます(原則、源泉徴収のみで課税関係が完結する源泉分離課税方式になり、年末調整や確定申告は不要)。なお、この役員には、例えば、取締役支店長など使用人として常時勤務している役員は含まれません。
海外勤務の日本法人の役員が日本法人から支給される役員報酬は、日本において20.42%の所得税がかかる一方、勤務する国からも税金をかけられる場合があり、この場合は国際間の二重課税を防ぐために、外国側で申告を行い、外国税額控除の適用を受けることになります。ただし、役員の給与に対する課税の取扱いについては、多数の国と租税条約を結んでおり、租税条約に異なる取扱いがあるときは、その取扱いが優先されます。
話は変わりますが、年の途中で海外勤務になる可能性がある方が注意しなければならないことの1つとして、ふるさと納税があります。住民税は、1月1日現在に住所のある 市町村において、前年中の所得に対して計算される税金ですので、たとえば、今年の3月にふるさと納税を多額に実施し、今年の12月に非居住者になった場合、来年の1月1日時点では非居住者であるため住民税がかからず、ふるさと納税の大半は言葉どおり寄付になります。
以上、今回は海外で働く場合の税金の取扱いを簡単にご説明しました。当事務所では、海外赴任前の準確定申告代行や納税管理人請負も承っておりますので、お気軽にご相談ください。