【消費税のみなし譲渡-廃業時の注意事項】
消費税が課税されるためには4つの要件がありますが、その1つが「対価を得て行われる」取引であることです(対価性)。ところが、対価のない無償取引であっても消費税が課される場合があります。それを「みなし譲渡」と呼びます。今回はこのみなし譲渡について解説していきたいと思います。みなし譲渡は、個人事業主の廃業時に問題となることが多いですので注意しましょう。
みなし譲渡とは
まずはみなし譲渡の根拠法令から確認していきたいと思います。消費税法第4条4項です。
(消費税法第4条)4 次に掲げる行為は、事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなす。
一 個人事業者が棚卸資産又は棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたものを家事のために消費し、又は使用した場合における当該消費又は使用
二 法人が資産をその役員(法人税法第二条第十五号 (定義)に規定する役員をいう。)に対して贈与した場合における当該贈与
2つのパターンがあることになります。
一つ目が、個人事業主が事業用の資産をプライベートの目的に消費または使用した場合になります。例えば、八百屋さんが、仕入れた野菜を夕飯に使った場合等が該当します。この場合、該当資産の時価での譲渡があったとみなして計算を行うことになります。もう1つが、法人がその会社の役員に対して、資産をあげるような場合になります。
上記2つの場合には、対価のない取引だったとしても対価のある取引(消費税の対象となる取引)とみなされることになります。
対価の金額はいくらか
上記で対価があったとみなされることはご理解いただけたかと思います。では、いくらを基準に消費税を計算することになるのでしょうか。この点につき、法律上は原則としてその資産の時価で譲渡があったとみなすことになります(法人税法28条)。しかし実務上は、時価よりもこれに関する通達(10-1-18)の特例を利用することが多いです。通達では、仕入金額以上、かつ、通常の販売価額の50%以上の金額であれば問題ないとされています。実務ではこちらを採用することが多いです。
対価1円であればいいのか?
法人から個人への贈与の場合、では対価1円で譲渡すれば贈与でないので、時価ではなく1円を基に消費税を計算すればいいのか?という疑問が生じるかと思います。しかし、これは認められていません。消費税法28条1項ただし書きに、時価より著しく低い金額で譲渡したときには、時価で譲渡があったものとみなすとあるからです。なお、この時価より著しく低いかどうかは、対価の額が時価の50%未満かどうかで判断します(通達10-1-2)。
廃業時に気をつけるべき論点
廃業をした後に事業に使っていた資産を家事消費・使用した場合に、上記のみなし譲渡が問題になることがあります。例えば、事業用の車両を廃業後に家事のために消費または使用した場合、消費税法4条4項の規定に従い、「事業として対価を得て行われた資産の譲渡」とみなされてしまう可能性があります。課税事業者であれば、思わぬ消費税の負担が生じることになりますのでご注意下さい。
またこの規定は土地等の非課税資産に対しても適用があります。もし廃業後に元事業用土地の上にマイホームを建てる場合などには、非課税売上となってしまいます。そうすると原則課税を適用している場合には、廃業年の課税売上割合が減少し、仕入税額が制限され、税負担が増加するおそれがあるので注意しましょう。
これらへの対処法としては廃業を決意したら、急に廃業するのではなく順次業務を縮小し、免税事業者となる等の方法が考えられます。
また、「廃業するとその時点で全ての事業用資産がみなし譲渡の対象となり、消費税が課される」との税務指導が入ることがあるようです。しかし、条文では「個人事業者が(中略)事業の用に供していたものを家事のために消費し、又は使用した場合における当該消費又は使用」とあり、廃業=家事消費・使用とは必ずしもなりませんのでこのような指導は文理解釈上、不当であると考えられます。
廃業時は色々気が緩んでしまいがちですが、思わぬ税負担が出ることがありますので注意しましょう。