小西公認会計士事務所コラムvol.5
【貸倒損失正しく使えてますか?】
今日は実務上問題となりやすい貸倒について注意点を解説したいと思います。
貸倒損失は企業にとって痛い損失ですし、これが損金にもならないとなるとダブルパンチになってしまいますので注意しましょう。
はじめに
貸倒とは簡単にいうと売掛金や貸付金の相手先が支払い不能になり、回収不納な状況になることをいいます。この場合、会計上は貸倒損失ということで、費用として計上します。
しかし、税法上は要件が厳しく、ただ返済されないというだけでは損失(損金)とすることができず、税務調査で問題となることが多くあります。
では、どのような場合に税法上も認められる貸倒となるのでしょうか。
この点税法上には明確な規定がないのですが、法人税法基本通達(9-6-1、9-6-2、9-6-3)に以下の三つの認められる場合が規定されています。以下これらの内容と注意点を順番に見ていきます。
9-6-1.:法律上の貸倒(法律上債権が消滅した場合や債務免除した場合)
9-6-2.:事実上の貸倒(債権者の資産状況、支払能力等からみて全面回収できないことが明らかな場合)
9-6-3.:売掛金が最後の取引から1年以上返済されず、回収コストが回収額を上回る場合。
9-6-1について
会社更生法や民事再生法等の法令の規定により債権が消滅した場合に、法的に債権が消えていますので消えた金額を貸倒損失として損金経理を認めるものになります。法的に債権が消えますので、仮に損金経理(経費として会計上処理すること)をしなくても強制的に損金になります。
また、通達内の(4)で ”債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合”に債務免除を行った場合には、その債務免除額も損金とできます。注意点としては、認められるのは”債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合”のみです。単に債務免除しただけでは寄附金とされてしまうことがあるので注意しましょう(損金にできる金額に制限があります)。安易な債務免除は要注意です。
なお、この相当期間ですが、国税庁HPにて”債権者が債務者の経営状態をみて回収不能かどうかを判断するために必要な合理的な期間をいいますから、形式的に何年ということではなく、個別の事情に応じその期間は異なることになります”とされています。一昔前までは2-3年というのが常識で、そのように言う調査官がいるかもしれませんが、”形式的に何年ということではなく”と国税庁のHPにありますので社会通念に照らして判断しましょう。
なお、例外として以下のいずれかに該当するような場合には、実質的に債務超過でなくても債権放棄で損金算入が認められています。
(1)債権の相手が子会社で、許認可のいる業種を営んでおり、債権放棄をしないと営業が続けられなくなる場合、(2)子会社を外部にM&A等する場合で、債権放棄することを子会社の買い手から強く要請される場合、の2つです。止むに止まれぬ事情の場合であれば、債務超過でなくても寄附金とならないということが示されています。
9-6-2について
1は法律上債権が消滅する場合ということで、これを満たさないケースも当然多数あります。そこで、通達9-6-2では、”その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合に“損金とすることができるとあります。この2.では実質的に”全額”が回収不能であることが明らかで、かつ、損金経理をすることにより損金算入することが可能となります。”全額”というのが見落とされがちなので注意しましょう。この”全額”という要件があるため、担保がある場合や保証人がいる場合にはすぐには認められないことになります。担保がある場合には担保の処分、保証人がある場合には保証人からの回収をしたあとでなければ、貸倒として処理できず、なかなかハードルが高いです。
しかし、担保や保証人がある場合に自動的に認められない訳ではありません。担保の処分前であったとしても、担保順位が低く、実質的に全額回収不能と言える場合には”全額”貸倒と考えることができます。また、保証人がいる場合であっても、保証人に生活保護程度の収入しかなく、差押えが禁止される程度の生活財産しかない場合(法令でこういったものの差押えはできないことになっています)には、保証人から回収することはできませんので、この場合も貸倒処理することが可能になります(上記の事例はいずれも、国税庁質疑応答事例より)。
なお、全額が回収不能であるかの判断基準について最高裁判例は、”債務者の資産状況、支払能力 等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比 較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによ る経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従っ て総合的に判断されるべきものである“としています。知っておいて頂きたいのは、債務者の状況だけでなく、債権者側の事情も踏まえて社会通念に沿って判断せよとしていることです。債権者側の事情も斟酌せよというのがこの判例では画期的だったと言われています。
9-6-3について
(1)最後の取引以後1年以上経過した売掛債権で、(2)売掛債権が取立費用に満たない場合で、催促したにも関わらず弁済がない場合には、備忘価額を付し、損金経理することにより損金算入できるとされています。これは売掛債権には短期時効(2年制度)が適用されることから、経済合理的に考えて回収不能な場合について定めたものになります。
注意点がいくつかあるので注意しましょう。対象となるのは売掛債権(売掛金等)のみであり、貸付金等は対象となりません。また、対象となる売掛金は継続取引から生じたものである必要があり、不動産取引のようにたまたま行う取引から生じた債権は対象となりません。また、備忘価額を1円以上残す必要があり、全額を損金とすることはできません(1万円の債権であれば、備忘価額1円を残し9,999円を貸倒損失とする)。
なお、継続取引とは、実際に複数回継続的に取引される必要はなく、継続・反復して取引をする意思をもって取引した場合を言います。国税庁の質疑応答事例でも、”一度でも注文があった顧客について、継続・反復して販売することを期待してその顧客情報を管理している場合には、結果として実際の取引が1回限りであったとしても、A社の顧客を「継続的な取引を行っていた債務者」とする“とされています。
以上貸倒損失にできる3つの場合を見てきました。貸倒でお金は回収できない上に、法人税まで支払うということはかなり辛いです。
上記3つのうちどれが適用できるのか、経理要件はどうなっているかを慎重に検討するようにしましょう。
公認会計士・税理士 小西
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